はじめに
バーコードシステムは、’70年代に登場したJANコードによるPOSシステムから始まり、’80年代にはITFコードによる梱包単位の物流管理システムに展開していった。これらの時代では「バーコードは、JUS規格に基づいて印刷していれば、バーコードリーダは必ず読むもの」と考えられていた。’90年代後半からUCC/EAN128規格が登場し、多くの分野でアプケーション標準規格が制定されている。
UCC/EAN128規格のバーコードには、ロット番号・有効期限・数量情報などの正確性を要求される生情報が入っているため、印刷から読取りまでを一貫して保証できる体制が要求されてきている。 実際の市場では、バーコード印刷品質の良し悪しが、システム全体に与える影響は計り知れないものがある。印刷品質の悪いバーコードを使用すると、POSシステムでは、チェックアウトカウンタで顧客の流れを阻害するばかりでなく、誤読による訴訟問題にまで発展する場合があったり、物流やFAシステムでは、システム稼働率を低下させたり、信頼性を損ねる原因になったりしている。
今まで多くの専門誌紙で、バーコード印刷品質のガイドライン「ANSI X3.182」規格の解説記事があったが、印刷のための規格として捉えられていた。今回は、これらの規格(ANSI,CEN,ISO/IEC,JIS)が本来持っている「バーコードリーダが確実な読取を保証するためのバーコード品質の評価」として捉えて解説した。
バーコードに関する規格
バーコードに関連する規格には、バーコードそのものの規格である「シンボル体系規格:JIS X0501(JAN), X0504(コード128)等」、特定の用途や特定の業界のために標準化された「アプリケーション規格:JIS X0502(物流ITF), UCC/EAN128を使用した業界標準規格等」、バーコードリーダでの読易さの度合いを定量化する「バーコードシンボル印刷品質の評価仕様:JIS X0520, ISO/IEC 15416, ANSI X3.182 等」の3種類がある。
最近、改定された一部のJIS規格(シンボル体系規格)では、印刷に関する記述を「バー幅寸法や反射率を重点的に考えた従来規格から、JIS X0520の内容に変更している。これは何を意味するかといえば、バーコードは「バーコードリーダで読まれるため」に印刷するのであって、従来のようにシンボル体系規格を守って印刷していれば、市場からの「読み難い」「読まない」「誤読する」といったクレームは、リーダ側に原因があるといったような、間違った解釈を防ぐことも目的としている。
つまり、バーコードは、精密に印刷すれば全てOKなのではなく、素早く・正確に読まれてこそ価値が出るのであって、リーダでの読み易さの度合いを判断する材料になるのが、これらの規格なのである。
バーコード印刷品質管理の重要性
印刷現場では
シンボル体系規格に忠実に作成したつもりでも、印刷条件が異なればそれぞれ異なった印刷品質グレードのバーコードが印刷されてしまう。印刷条件には、印刷方式・基材・インキ・最小分解能・太細比・線/網点密度・色・光沢・透明度・その他多くの項目があり、複合的に絡み合っている。精密なフィルムマスタを用意して網点印刷をしたり、バーコード専用プリンタで90°反転印刷をしたりすると、期待した効果が得られないまま、貧弱なバーコードが印刷されてしまうことがある。 このようなバーコードが、システム内または市場に出回る前に、印刷品質の評価を行うべきである。
読取現場では
目で見るとキレイに印刷されているように見えるバーコードでも、リーダが「読み難い」「読まない」「誤読する」などのクレームは、印刷品質グレードが低いバーコードで多発する。言いかえれば、印刷品質グレードの低いバーコードは、トータルシステムコストを高騰させる材料になるばかりでなく、システムの効率を著しく低下させる要因にもなる。
リーダの読取性能が向上し、バーコードの印刷品質が悪くても読むリーダが増えているが、それは常に、誤読への危険性を抱えていることにほかならない。逆に、バーコードの印刷品質が良ければ、リーダへの設備投資も少なくて済み、システム全体の信頼性も増す。読取性能の過当競争をするより、印刷品質グレードを高く維持するように管理する方を薦めたい。また、物流におけるトレーサビリティに関連して発生する訴訟問題やPL法・ISO9000に対応するには、日頃からバーコード印刷品質の管理をしておくことも肝要である。
バーコード印刷品質規格の概略
- 測定波長の明示
バーコードリーダは、バーコードに照明光(光源)を照射し、その反射光を集めて電気信号に変換し、解読して元のデータを得るが、照射する光源の波長はnm(ナノメータ:10-9m)で表す。検証器では、リーダの光源と同じ波長で測定するのがベストである。通常は、620nm(赤色)~940nm(赤外線)の範囲を使用する。測定波長を明確にする目的は、波長によって反射率データが大きく異なるためである。特に、カラーバーコードや感熱紙では、光源の波長によっては、リーダの読取り率に大幅な差が生じ、期待した通りの読取り結果が得られないケースが多い。 - 開口径と細エレメント寸法のマッチング
検証器のセンサは、細エレメント幅(X寸法)に合わせて、表の開口径のものを使用する。 開口径とX寸法がミスマッチのまま測定すると、全体のグレード判定が無意味なものになる。 特にエッジコントラストやモジュレーションに大きな影響を与える。- X寸法mm 開口径mm 番号
0.102 ≦ X< 0.178 0.076 03
0.178 ≦ X< 0.330 0.127 05
0.330 ≦ X< 0.635 0.254 10
0.635 ≦ X 0.508 20 - 注1) 表の番号は、mil(ミル:1/1000インチ)で表した開口径と同じである。
注2) EAN/UPCでは、6mil(0.1524mm)を推奨しており、0.33mmを100%としたときの倍率80%~200%に対応している。
注3) 測定器(検証器)の読取りセンサ部分の光学的基本配置図を図-1に示す。 - 図-1 測定装置の光学系の基準
- X寸法mm 開口径mm 番号
- 測定箇所および測定回数
測定箇所はできるだけ広範囲(バー高さの中央部80%)を10回(10等分)に分けて行うことが望ましい。これは、バーコード全体の平均を求める意味もあるが、リーダがどの部分を読むかが不定のためでもある。 - 測定結果の判定
測定した結果を集計・計算し、グレード判定をする。グレードには、スキャングレード(1スキャン毎のグレード)とシンボルグレード(10スキャンの総合グレード)がある。グレードは記号で表現する場合はA,B,C,D,Fに、また、数字で表現する場合は4,3,2,1,0に等級付けする。 A(4)は最高グレードであり、どの場所でも1回のスキャンで読める程度、D(1)が最低グレードであり、複数の箇所を複数回スキャンして読める程度である。また、F(0)は欠陥(Fail)を表し、通常は使用してはならないバーコードである。 - 反射率の基準
反射率は、硫酸バリウムまたは酸化マグネシウムの反射率を100%として比較する。(例:実際の検証器では、反射率84%程度の校正用基準ラベルを使用する場合が多い)
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