ローコード開発が引き出した業務改善の無限の可能性
鍋やフライパン、包丁、フォーク、スプーンなど、業務用の多彩な厨房用品を扱い、70年以上にわたって調理道具の総合商社として業界を牽引してきた江部松商事。
同社は倉庫業務の効率化を促進させるアプリケーションに関して開発の柔軟性を高め、より迅速な業務改革を進めるために、業務用のハンディターミナルをゼブラ・テクノロジーズの「MC20」に刷新。業務改革を実現するだけでなく、それを継続できる理想的な体制を構築できました。
市場背景
外食産業の低迷が従来業務を見つめ直すきっかけにピンチをチャンスに変換すべくIT導入を推進
「美味しい・楽しい」をサポートする総合商社として、ホテルやレストランなどで必要とされるあらゆる調理道具を取り揃える江部松商事。
扱う商品は実に90,000アイテム以上。東京ドーム約1個分の広さを誇る自社倉庫には、随時約50,000アイテムの在庫を保有しています。
同社では物流に携わる約100名の従業員が、入庫・検品・棚入れ・在庫保管・ピッキング・検品・梱包・出荷を行っています。全国の販売店からの注文依頼に対し、効率よく迅速に出荷できるよう、現場の声に耳を傾けながら業務改善やIT導入を進めてきました。江部松商事 システム部の松井 進氏はその取り組みをこう話します。「広大な倉庫で多くの人が働き、多くのアイテムが動くロジスティクス業務には、改善の余地が無限にあります。
一方で従来の業務に慣れているスタッフにとって、急激な変化はストレスにもなるので、現場の様子を見ながら慎重に業務改善を行ってきました」(松井氏)直近の改善事例として、同社はOCRの技術を導入し、販売店からFAXで届く注文書を自動でデータ化する仕組みを構築しました。紙の印刷コストを約3割低減するとともに業務効率化を実現しています。昨今ではコロナショックによる外食産業の低迷が、さらなる業務変革を進める契機になったと松井氏は振り返ります。
「コロナ禍による外食産業への打撃は、飲食店に調理道具を供給する我々の事業にも影響をもたらしました。とはいえ、食は私たちにとって永遠に欠かすことのできないもの。ピンチをチャンスに変え、明日の外食産業をより強固に支えるため、倉庫の稼働が落ち着いている間に改めて業務を見つめ直し、改革を検討しました」(松井氏)
▲豊富な調理用品
課題・選定理由
拡張性が低い従前のデバイスが業務改革のボトルネックにAndroidベースのゼブラ端末に活路を見出す
倉庫業務の抜本的な改善を目指し、松井氏が目をつけたのが、ピッキング作業や出荷検品作業の際に使用するハンディターミナルでした。以前の課題について松井氏はこう振り返ります。
江部松商事株式会社
システム部 課長代理
松井 進氏
「従前のデバイスは、ピッキングと出荷検品、棚卸という3業務のみで使っていました。もっと幅広い活用の可能性を秘めていましたが、汎用的でないOSがゆえにプログラムの追加や修正は専門のベンダーでないと行えませんでした。例えば、表示項目を一つ追加するような軽微な修正でも、ベンダーに相談し、仕組みを検討したうえで実装しなければならず時間がかかっていました」
こうした課題を解消するため、松井氏はOCRの導入支援を仰いだ開発ベンダーの奏風システムズに相談します。
そこで提案されたのがゼブラ・テクノロジーズのハンディターミナル「MC20(以下、ゼブラ端末)」でした。松井氏は選定理由をこう説明します。
「最もポイントになったのが、汎用的なAndroid搭載の端末であり、かつ奏風システムズからアプリケーションをローコード開発できる仕組みを提案してもらえたことでした。こうして開発の柔軟性を得られることで、さまざまな業務へのハンディターミナルの活用が期待できました。奏風システムズが既にゼブラ端末のプログラム開発の実績があったことも心強かったです。2点目は、キーの配列やボタンの押しやすさ、見やすい画面サイズなどハードウェアとしての高いデザイン性です。手に収まるフィット感も好感触でした。3点目はスキャンの感度・精度が非常に優れていたことです」(松井氏)
ゼブラ端末の採用を決定した同社は、2022年4月から8月にかけて8台を試験的に導入。奏風システムズにプログラム開発を依頼し、従前のデバイスでは実現できなかった入庫業務での活用を試みました。
▲OCRで取り込んだ情報を発注データとひもづける作業
これにより、以前は倉庫内に常設されたPCでの入庫処理作業の納品書と納品物をつけ合わせてチェックし、PCに戻って入力していた非効率な作業が、手元の端末上で完結可能になりました。
さらに、併せて導入したモバイルプリンターと連携することで、納品確認とともに片付け指示をシール印刷し、対象のダンボールに貼って片付けに回すというシームレスな業務フローを実現しました。
ゼブラ端末の有用性を確信した江部松商事は、2022年11月に110台を導入し、既存端末から運用の完全移行を果たしました。大規模な移行プロジェクトを無事完遂できた秘訣について、奏風システムズ 代表取締役 赤塚 剛氏は次のように話します。
奏風システムズ株式会社
代表取締役
赤塚 剛氏
「試験運用の段階から、現場スタッフの方が新しい端末に拒否反応を示さないよう、画面表示を極力従前の端末に寄せたことがスムーズな導入の第一歩になったと思います。そのうえで、現場の意見も吸い上げながら調整を重ね、チーム一丸となってプロジェクトを進めることができました。また、デバイス移行の際はゼブラが提供する『StageNow』を活用することで、バーコードスキャンで110台の設定やステージングをスムーズに行うことができました」
導入効果
週1ペースの柔軟なアップデートで継続的に改善 無限の可能性が「楽しくて仕方ない」
江部松商事は、ゼブラ端末の導入によって新たに入庫業務のシステム化を果たすとともに、従来から行っていたピッキング、出荷検品、棚卸の3業務も新端末へ完全移行しています。現場からは「バーコードの読み取りの精度が格段に向上した」「タッチパネルが直感的に使えて操作性が高い」「画面のサイズが大きく、以前は商品名の表示に制約があったが、全表示されるようになり作業しやすい」など、好評の声が上がっています。
江部松商事株式会社
システム部 課長代理
松井 進氏
ゼブラ端末の本導入から約1年。短期間のうちに同社は商品の片付け、出荷状況の問い合わせ、在庫照会といった業務でもゼブラ端末の活用を拡大しています。その効果について、松井氏はこう語ります。
「ローコード開発によって、アジャイル的に新機能を実装しては実務で効果を確認し、改善するという、従前の端末ではなし得ない環境を実現できました。奏風システムズに追加や修正を依頼すると、軽微な内容なら翌日には実装されるスピード感。週に1回くらいのペースでブラッシュアップし、高速でPDCAを回しています。ゼブラ端末の導入による業務改善効果は計り知れません。もはやゼブラ端末がなくては業務が成立しないほど重要な存在。ゼブラ端末に追加したいプログラムのアイデアは溢れ出ていて、無限の可能性が楽しくて仕方ありません」
今後の展望
PCにアクセスせずゼブラ端末だけで業務が完結できる世界を目指す
アプリケーションを迅速かつ柔軟に行える仕組みを構築した江部松商事は、ゼブラ端末のポテンシャルを最大限に引き出し、引き続き新たな活用を模索しています。
最後に松井氏は、ゼブラ端末の利用や倉庫業務に関する今後の展望について、次のように締めくくりました。
「今回の導入は、現場で働くスタッフのなかに『自分たちの業務を自分たちでよりよくしていく』という意識が芽生えるきっかけになりました。現在はテンキー付きの端末を使っていますが、業務によってはテンキーを使用しない場合や、よりコンパクトな端末の方が作業しやすい場合もあります。ゼブラ製品はさまざまな機種がラインアップされているので、今後は用途に応じた端末の導入を検討しています。最終的には、作業するスタッフ全員が、基幹システムのPCを使わなくても、ゼブラ端末だけでスマートに業務を完結できる世界を目指したい。そのために、ゼブラや奏風システムズには引き続き新たな提案やサポートを期待しています」(松井氏)